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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)9425号 判決

平成八年(ワ)第九四二五号 不正競争差止等請求事件(本訴)

平成一〇年(ワ)第六九〇七号 商標権移転登録手続請求事件(反訴)

本訴原告(反訴被告)

ベルフォーラム株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

本渡諒一

外川裕

許功

右本渡諒一復代理人弁護士

伊藤孝江

右補佐人弁理士

【B】

本訴被告(反訴原告)

株式会社ホリキリ

右代表者代表取締役

【C】

右訴訟代理人弁護士

米田宏己

西信子

主文

一  本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、金五三九万四四〇二円及びこれに対する平成一〇年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  本訴原告(反訴被告)のその余の請求をいずれも棄却する。

三  反訴原告(本訴被告)の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その一を本訴原告(反訴被告)の、その余を本訴被告(反訴原告)の各負担とする。

五  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

※以下、本訴原告(反訴被告)を「原告」、本訴被告(反訴原告)を「被告」という。

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(本訴)

1 被告は、別紙被告商品目録記載の商品を販売、譲渡、展示するに当たって、「セラール300 CERAL」という商品表示を用いてはならない。

2 被告は、別紙著作物目録記載のパンフレット等を破棄せよ。

3 被告は、原告に対し、金六二五万円及びこれに対する平成八年九月二一日(本件本訴状送達の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

5 仮執行宣言。

(反訴)

1 原告は、被告に対し、別紙商標権目録記載の登録商標につき、移転登録手続をせよ。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本訴)

1 原告の本訴請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴)

1 本案前の答弁

(一) 被告の反訴を却下する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2 本案の答弁

(一) 被告の反訴請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

一  基礎となる事実(争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨より明らかに認められる。なお、書証番号は甲1などと略称し、枝番のすべてを示すときは枝番の記載を省略する。)

1  当事者

(一) 原告は、建築工事の企画、設計及び施工等を目的とする株式会社である。

(二) 被告は、建築工事及び内装工事の企画、設計、施工を主たる業務とする株式会社である(乙1)。

2  原告商品の販売

原告は、一六枚のタイルを組み合わせたユニット式ジョイントタイル(以下、単にこのユニット式ジョイントタイルを指すときは「本件商品」といい、特に原告が販売する同商品を指すときは「原告商品」という。)を、「セラール CERAL」という商品表示(以下「本件表示」という。)を使用し、マンションのバルコニー用商品として販売している。

3  原告の商標権

原告は、別紙商標権目録記載の商標権を有しており(以下、この商標権を「原告商標権」、この商標権に係る商標を「原告商標」という。)、右商標を使用して原告商品を販売している。なお、原告商標と本件表示とはほぼ同じ内容のものである。

4  被告商品の販売

(一) 被告は、九枚のタイルを組み合わせたユニット式ジョイントタイル(以下「被告商品」という。)を、「セラール300 CERAL」との商品表示(以下「被告表示」という。)及び別紙被告商標目録記載の商標(以下「被告商標」という。)を使用して販売している(なお被告表示と被告商標とはほぼ同じ内容のものである。)。

(二) 被告は、平成一〇年一〇月二一日以降、被告表示及び被告商標の使用を中止した。

(三) 被告表示及び被告商標は、本件表示及び原告商標と類似する。

(四) 被告は、平成九年七月二五日から平成一〇年一〇日二〇日までの間に、九三〇〇枚の被告商標を使用した被告商品を販売し、これにより二四八六万八二〇〇円の売上げを得、一八四七万九〇七〇円の売上原価を要し、六三八万九一三〇円の粗利益を得た。

二  原告の本訴請求

1  不正競争防止法に基づく請求

本件表示は原告商品の商品表示として周知性を有しているところ、被告商品についての被告表示の使用は、不正競争防止法二条一項一号に定める不正競争行為に該当する。よって、原告は、被告に対し、①同法三条一項に基づき、被告商品を販売等するに当たって被告表示を使用することの差止め、②同条二項に基づき、別紙著作物目録記載のパンフレット等の破棄、③同法四条に基づき、被告が被告商品を販売し始めた平成六年から平成一〇年一〇月二〇日までの間の被告商品の販売に係る損害賠償をそれぞれ請求する。

2  商標権侵害に基づく請求

被告商標は原告商標と類似するから、被告商品を販売等するに当たって被告商標を使用する行為は原告商標権を侵害する。よって、原告は、被告に対し、①商標法三六条一項に基づき、被告商品を販売等するに当たって被告商標を使用することの差止め、②同条二項に基づき、別紙著作物目録記載のパンフレット等の破棄、③商標権侵害に基づき、平成九年七月二五日(原告商標権の登録日)から平成一〇年一〇月二〇日(被告商標の最終使用日)までの間の被告商品の販売に係る損害賠償をそれぞれ請求する。

3  両請求の関係

右1の請求と2の請求とは、単純併合の関係(ただし、損害賠償に関し、重複する期間に係る部分は選択的併合の関係)にある。

三  被告の反訴請求

反訴は、原告商標を案出し、商品化したのは被告であるから、原告商標の商標登録請求権は本来被告が有すべきであり、真の商標権者は被告であるところ、原告は被告の商標登録請求権を冒用して商標登録出願をし、原告商標の商標登録を得たとして、被告が原告に対し、真正な登録名義の回復を原因とする原告商標の移転登録を求める事案である。

四  争点

(本訴について)

1 不正競争防止法関係

(一) 本件表示は、原告商品を示す周知の商品表示か。

(二) 被告商品は原告商品と誤認混同するおそれがあるか。

(三) 被告による先使用権の有無

(四) 損害額

2 商標権侵害関係

(一) 本件における原告の商標権の行使は権利濫用か。

(二) 損害額

(反訴について)

3 反訴の訴えの利益の有無

4 被告は原告に対する原告商標の移転登録請求権を有するか。

第三争点に関する当事者の主張

(本訴について)

一  不正競争防止法関係

1 争点1(一)(本件表示の周知商品表示性)について

【原告の主張】

本件商品は、昭和六二年ころに原告代表者が開発したものであり、平成元年四月ころから、本件表示を使用して、原告代表者個人が「ロックウエスト製作所」(以下「ロックウエスト」という。)の屋号で製造・販売していたが、平成四年以降は、ロックウエストは休眠して原告がロックウエストの業務を承継し、以後、原告が本件表示を使用した原告商品を販売している。

本件商品は、ロックウエストによる製造・販売の時代から、各マンションメーカーの建設する近畿一円の多数のマンションに納品され、その数は平成九年二月ころまでの間で約二万五〇〇〇戸に達している。また、原告は、本件表示を使用した原告商品のパンフレット四万枚を配布した。そして、これらによって、本件表示は、遅くとも平成六年ころまでには、原告商品を表示する商品表示として、内装業者の間において周知性を獲得した。

【被告の主張】

もともと本件商品は、原告代表者から販売協力依頼を受けた被告において、マンションのバルコニー用商品として売り出すことを考案し、商品名もセラミックとタイルの合成語として「セラール」と名付け、宣伝用チラシ(甲1)を作成するなどして商品化した上で、平成二年二月ころから、ロックウエストから供給を受けて、ロックウエストと平行して自己の商品として販売してきたものであり、その後にロックウエスト又は原告からの商品供給が途絶えた後の平成五年一一月ころからは、被告表示を使用した被告商品へと切り替えて販売してきたものである。

そして、この被告の販売努力によって、本件表示は被告の商品を示す商品表示として周知性を獲得したのであり、原告商品を示す商品表示として周知性を有しているのではない。

2 争点1(二)(誤認混同のおそれ)について

【原告の主張】

被告商標と本件表示とは極めて類似しているから、被告商品は原告商品と誤認混同するおそれがある。

【被告の主張】

否認する。

3 争点1(三)(先使用)について

【被告の主張】

被告は、本件商品を商品化した上、平成二年二月ころ以降、本件表示を使用した本件商品を自己の商品として販売し、平成五年一一月以降も被告表示を使用した被告商品を販売してきているのであるから、仮に本件表示が原告商品を示す商品表示として周知性を有しているとしても、右周知性を獲得する以前の平成二年二月ころから被告は本件表示を自己の商品表示として不正の目的なく使用している。

【原告の主張】

本件表示は、ロックウエスト又はその業務を承継した原告の商品表示として周知性を獲得しており、被告は、単にロックウエスト又は原告から本件商品を仕入れて販売していたにすぎない。したがって、本件表示が被告の商品表示として使用されていたものではない。

4 争点1(四)(損害額)について

【原告の主張】

被告には、不正競争防止法二条一項一号に該当する行為を行うについて故意又は過失があったところ、被告は、平成六年から平成一〇年一〇月二〇日までの間に、被告商品の販売によって六二五万円の利益を得たから、これが原告の損害と推定される。

【被告の主張】

争う。

二  商標権侵害の関係について

1 争点2(一)(権利濫用)について

【被告の主張】

争点1(一)の被告の主張のとおり、原告商標を使用した本件商品は、原告代表者からの相談を受けて、被告が商品化し、商品名も考案したのであるから、原告商標について商標登録請求権は被告こそが有する。原告商標権は、このような被告の権利を冒用して原告が出願し、登録されたものであり、そのような権利に基づいて被告に対して被告商標の使用の差止め及び損害賠償を求めることは、権利濫用である。

【原告の主張】

争う。

2 争点2(二)(損害額)について

【原告の主張】

平成九年七月二五日から平成一〇年一〇月二〇日までの間の被告商品の販売によって被告が得た粗利益は六三八万九一三〇円であるところ、そもそも商標法三八条二項の「利益」は、本件では粗利益を指すと解すべきであり、そうでないとしても、被告の取引状況からすれば、被告において被告商品の販売だけのために何らかの経費を要したとは考えられないから、被告には右粗利益額から更に控除すべき経費はない。

したがって、原告が被った損害額は右六三八万九一三〇円と推定される(本件では右金額の内金六二五万円を請求する。)。

【被告の主張】

(一) 原告主張の金額は粗利益額にすぎない。商標法三八条二項の「利益」は、純利益を指すと解すべきであり、被告商品の販売に要した相応の販管費及び法人税を控除すると、被告が得た利益は五九万三八一四円となり、これが原告の損害と推定される。

(二) また、被告商品の売上げは、被告の営業努力や市場開拓努力の成果であり、また、原告商品と被告商品との間には、具体的なロゴ、色、柄、価格における差異がある。このように、被告の売上げは、これらの要素が相まって形成されたものであり、単に被告商標を使用したことによるのではないから、被告が受けた利益の額を直ちに原告の受けた損害の額と推定することはできない。

(反訴について)

三1 争点3(反訴の訴えの利益の有無)について

【原告の主張】

反訴請求は、被告が有する商標登録請求権を原告が冒用して商標登録を得たことを理由とするものであるが、特許法において特許を受ける権利が認められているのとは異なり、商標法においては、商標の設定登録前に登録請求権なる権利は存しない。また、商標は登録によって初めて生じる権利であるから、被告が原告商標権を有することはあり得ない。したがって、反訴請求は、法律上存しない権利を基礎とする請求であって、訴えの利益がない。

【被告の主張】

争う。

2 争点4(被告の原告に対する原告商標の移転登録請求権の有無)について

【被告の主張】

争点2(一)についての被告の主張のとおり、原告商標についての商標登録請求権は被告こそが有する。したがって、被告は、原告に対し、原告商標の移転登録請求権を有する。

【原告の主張】

争う。

第四争点に対する当裁判所の判断

一  事実経過

後掲各証拠、甲35、36、乙21、証人【D】の証言、原告及び被告各代表者の各供述並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件表示と本件商品をめぐる取引経過について、次の事実が認められる。

1  原告代表者は、昭和六二年ころ、一六枚のタイルをプラスチック枠で組み合わせたユニット式ジョイントタイル(本件商品)を開発し、同年一二月二二日には、「タイルブロック用枠」の考案として実用新案登録出願もした(甲29)。

そして、原告は、平成元年四月ころから、ロックウエスト製作所の屋号で、本件商品の製造販売を開始した。ロックウエストでは、当初、訴外ダントー株式会社からタイルを、訴外ノーテープ工業株式会社からタイル加工用接着剤を、訴外山陽プラスチックス株式会社からタイル枠を仕入れて(甲3、5、6)、自ら本件ジョイントタイルを製造していたが、平成二年春ころから、訴外ハリマセラミック株式会社に製造を委託するようになった(甲4)。

2  ロックウエストは、平成元年七月ころには、訴外株式会社ミサワセラミックホーム大阪が販売していた「ニート」という商品名の一戸建て住宅のバルコニー用に本件商品を販売するようになっていたが(甲8の1、3)、そのころ、人工芝を製造販売していた訴外大一産業株式会社(以下「大一産業」という。)の【E】を紹介され、同人から、大一産業の取引先であるマンションのオプション品販売業者の紹介を受けて、マンションのバルコニー用商品として、本件商品の売り込みを行うようになった。しかし、あまり成果は上がらなかった。

被告は、大一産業の取引先の一つであり、当時、主としてマンションのオプション品の販売を行っていたが、平成元年冬ころ、被告代表者が【E】から原告代表者を紹介され、本件商品の販売協力の依頼を受けて、本件商品をマンションのバルコニー用の商品として販売に乗り出すこととなった。

(なお、本件商品をマンションのバルコニー用商品として売り出すことにした点について、被告代表者は自分の発案であると供述する。しかし、原告代表者が被告に販売協力を依頼する以前の平成元年七月ころの時点で、原告代表者は、一戸建て住宅ではあるがバルコニー用の商品として本件商品を既に販売していたこと、右販売協力依頼の当時、被告はピカウォール〔乙20〕等のマンション用オプション品の販売を主力業務としており、その被告に原告代表者が販売協力を依頼したことからすれば、原告代表者は、被告への協力依頼の時点では、既に本件商品をマンションのバルコニー用商品として販売する考えを持っていたと推認するのが相当である。もっとも、被告が関与する以前に一戸建て住宅のバルコニー用商品として使用されていたタイルは、それ以後に本件表示を使用して販売された本件商品に使用されたタイルとはグレードが異なるものとなっていること、被告の関与によって初めて本件商品に「セラール」という商品名が与えられたこと、商品名を「セラール」とした理由について被告代表者が述べるところは詳細であり合理的であること、被告は本件商品の宣伝広告媒体の作成費用を当初に負担するまでしていること〔甲23、乙2、3、9〕からすれば、被告は、本件商品に「セラール」の名称を与え、その商品規格を決定し、その販売活動を展開するに当たって大きな寄与をしたものと認めることができる。)

3  こうして、本件商品は、平成二年春ころから、「セラール」の商品名で、本件表示を使用して、マンションのバルコニー用商品として販売されることになったが、同年四月ころ、宣伝用のチラシ(甲1)が作成された。そこでは、表面には商品のイメージ写真とともに「セラール」「CERAL」の商品名が表示され、裏面には商品説明とともに、「製造元ロックウエスト製作所」との不動文字による表示がなされ、さらに、「お問い合わせ、お申込みは…」とある欄に各販売店の名前を表示するように空欄とされていた。このチラシは、当初、被告の負担によって一万部作成された(乙2、3)が、その後の平成二年九月一七日に二万四〇〇〇部増刷された(乙9の1)。さらにその後、平成五年八月四日には、表面のみを印刷したチラシ(乙6)を五〇〇〇枚増刷した(乙9の2)。本件商品の宣伝のために被告は、そのほかにも、本件商品のパネルやポスター等を自己の費用で作成した(甲23)。もっとも、これらの費用については、後の平成三年九月に、被告から原告に請求がされた(甲22、23)が、原告が平成四年七月一三日付け文書(乙28)による返答をした(後記二の2参照)以外に、それに対してどのように応じたのかについては争いがある。

そして、本件商品は、ロックウエストが製造した上で、種々のルートで販売された。すなわち、①ロックウエストから株式会社ミサワセラミックホーム大阪へ販売(甲7、8)、②ロックウエストから大一産業を介して(甲9、10)被告に販売(ただし一部被告との直接取引もあったことが窺われる〔甲11、12〕)、③ロックウエストから大阪鈴木商事株式会社への販売(甲14)、④ロックウエストから株式会社ワカタケへの販売(甲15)、⑤ロックウエストから株式会社サンルームインテリアへの販売(甲16)、⑥ロックウエストからベニートヤマ株式会社等への販売(甲20)といった販売ルートがあった。また、被告代表者は、ロックウエストが「セラール」の商品名を使って、これらの多様なルートで本件商品を販売することについては、積極的に推奨していた。

ところで、一般にマンション用オプション商品は、マンションメーカーから指定された業者(伝票主などと呼ばれる)が、マンションの購入者を対象に事前販売会を行うという形態で販売されるが、オプション品メーカーは、このような伝票主や、その下でオプション工事を行う施工業者に対して自己のオプション品を採用してもらうよう販売活動を行うこととなる。そして、ロックウエストの販売先であった前記③ないし⑥の業者はいずれも施工業者であり、また、被告も積極的な営業活動を行い、「セラール」の受注・販売を行っていた(乙5、19)。

4  その後、経緯については争いがあるが、平成二年七月二五日に資本金五二〇万円で原告が設立された。原告の設立に当たっては、原告代表者、被告代表者らが発起人となり、一〇四株の発行株式中、被告が六〇株、原告代表者及び被告代表者が各一〇株を引受け(甲28)、原告代表者が代表取締役に就任した。

5  原告会社設立後は、「セラール」の販売ルートは、次のようになった。

すなわち、前記3の取引ルートのうち、被告以外への販売については、ロックウエストから直接又は原告を介して販売がなされた(甲7、8、13ないし18、20)。他方、被告への販売については、被告が原告が受注した室内装飾工事の下請けとなり、そのために必要な原告商品はロックウエストから購入し、被告は原告に対して材料費及び工事費を請求する形態が採られた(甲19)。

なお、本件商品の製造をロックウエストが行う点については、従前と変更はなかった。

6  ところが、経緯については争いがあるが、平成三年一二月ころ、被告は原告から手を引くこととなり、被告や被告代表者が保有していた原告の株式を原告代表者に譲渡した(甲24ないし27)。これにより、原告の発行済株式すべてを原告代表者が保有することとなった。

7  本件商品が本件表示を使用して販売された平成二年四月ころから、平成三年末ころまでの間に、長谷工コーポレーション、朝日住建、セキスイ化学、兼松都市開発、帝人、東急不動産、丸紅不動産、三菱地所等の大手マンション事業者のマンションに数多く納入された。そして、同種商品としては、訴外シノトウセキ社の「セラシート」という商品もあったものの、特に有力な競合商品がなかったことも相まって、マンション関係業者の間では、この種ジョイントタイルのことが「セラール」と呼ばれるほどとなった。

8  被告に対する本件商品の供給は、平成三年九月ころ以後は原告からなされており、それは平成四年五月二二日まで続き(乙22)、以後は供給が途絶えた。

このため被告は、ベスト産業、千鳥陶園(乙14)、近畿セキスイ商事(乙25)等から本件商品を仕入れ、本件表示を使用して販売した(乙5の14以下)。しかし、平成五年一一月ころからは、商品の内容を、従来の一六枚のタイルを組み合わせたもの(本件商品)から、九枚のタイルを組み合わせたもの(被告商品。三〇〇㎜×三〇〇㎜を一ユニットとするので「セラール300」と名付けられた。)へと変更して販売している(乙5の19以下、乙31)。

もっとも、被告は、本件訴訟提起後の平成一〇年一〇月二一日以降、「セラール300」との商品表示を使用していない。

9  他方、原告は、平成四年以降、自己の商品として本件商品を販売しており、平成四年三月から平成七年一〇月までの間に販売した件数として証拠上認められるものは、二五件である(甲37ないし49)。

二  不正競争防止法に基づく請求(争点1(一)(三))について

1  前記一3で認定したとおり、本件商品は、マンション関係事業者を通じて消費者(マンション購入者)に販売されるものであるところ、前記一7で認定した事実からすれば、本件表示は、遅くとも平成三年一二月ころには、マンション関係業者の間において、本件商品を表示する商品表示として周知性を獲得したものと認められる。

ところで被告は、本件表示の右周知性は、被告が自己の商品として販売していた本件商品を表示するものとして獲得されたものであると主張する。

しかし、前記一3ないし5で認定した事実からすれば、①本件商品は、もともと原告代表者が開発したものであり、被告が販売協力に乗り出す以前からある程度の販売活動がなされていたこと、②本件商品は、すべてロックウエストが製造していたものであり、ロックウエストから被告を含む多くの業者に販売されていたものであること、③被告が本件商品を販売するときにも、すべてロックウエスト製造に係る商品をロックウエストから直接に又は原告を介して供給を受けていたものであること、④本件表示が使用され始めた平成二年春ころから平成五年ころまで使用されたチラシである甲1には「製造元ロックウエスト製作所」と不動文字で表示されており、被告の名前は、他の施工業者らと同様に、販売店を表示するための空欄に記載することになっていたと推認され、このようなチラシを被告は自己の負担で作成した上で、販売活動に使用したこと、⑤他に本件商品が被告の商品であることをマンション関係業者に認識させるような宣伝広告媒体が作成された形跡もないこと、⑥被告自身もロックウエストが被告以外に本件表示を使用して本件商品を販売することを推奨していたことを指摘することができ、これらの諸点からすれば、マンション関係業者の間では、本件商品はロックウエストの商品として通用し、本件表示は、右ロックウエストの商品であることを示す商品表示として周知性を獲得したと認めるのが相当であり、被告が本件商品を販売する際にも、本件表示を自己の商品を表示する商品表示として使用していたと見ることはできない。

確かに、前記一2のとおり、本件商品をマンションのバルコニー用商品として発売するに当たって、名称の考案を含めて被告がその商品化に大きな寄与をしたことは認められ、また、被告は平成二年六月の時点で「セラール」を自己の商標として登録しようとしたことがあるものと認められる(乙32)が、ある商品表示が誰の商品を表示するものとして使用され、周知性を獲得するに至ったかを判断するに当たっては、取引界において当該商品表示が誰の出所を表示するものとして通用していたかという客観的事情を重視すべきものであるし、前記④⑥の事情からすれば、被告自身も本件表示がロックウエストの出所を表示することを前提として本件商品の取引に関わっていたというべきであるから、本件商品の商品化に当たっての被告の右のような寄与を前提にしても、前記結論は左右されない。

2  もっとも、本件において、営業上の利益を侵害されたとして、不正競争防止法に基づく差止め及び損害賠償請求をしている主体は原告であるから、本件で原告の右請求が認められるためには、本件表示が、ロックウエストではなく、原告の商品の商品表示として周知性を獲得している必要がある。

この点について、原告は、被告が原告から手を引いたことに伴い、ロックウエストは休眠状態となり、その事業は原告に承継されたから、それ以後は、本件表示は原告の商品を示す商品表示として周知性を有するようになったと主張する。

確かに前記のとおり、ロックウエストは原告代表者の個人営業の屋号であり、また、被告が原告から手を引いた平成四年以降は、原告は原告代表者が完全に支配掌握するいわゆる一人企業となったから、ロックウエストと原告を並立させておく必要が乏しくなったであろうことは推測することができる。しかし、それ以前は両者の営業は分離され、ロックウエストは本件商品を製造し、原告はロックウエストから本件商品を仕入れて受注・販売するという区分が明確になされており、財務管理も区分して行われていたのであるから(甲13、18参照)、ロックウエストの営業が原告に承継されたというのであれば、そのための内部手続や対外的手続がなされ、あるいは原告の業務態様の変化が生じるはずであるが、そのような事情を窺わせる証拠はない。かえって、乙28によれば、平成三年九月に被告が原告に対して甲1の作成等に要した費用の支払を請求してきたこと(甲22)に対して、平成四年七月一三日に原告からなされた回答において、原告は、被告からの請求項目中、原告設立以前に発生した費用についてはロックウエストに関係するものであるのでロックウエストに確かめたところ、その費用は被告自身の開発費との認識であるという旨を述べており、これによれば、平成四年七月の時点においても、原告とロックウエストは並立して存在しており、本件商品に関するロックウエストの営業を全面的に(費用も含めて)承継したというわけではないのではないかとの疑問が生じるところである。

そうすると、原告が本件商品に関するロックウエストの営業を承継したとの原告の主張は直ちに採用することはできず、したがって、本件表示がロックウエストの商品を表示するものとしての周知性を獲得していたことを理由に、原告の商品を表示するものとして周知性を有するようになったということもできない。

3  そこで進んで、原告が平成四年以降、自己の商品のために本件表示を使用したことにより、本件表示が原告の商品であることを示す商品表示として周知性を独自に獲得したかについて検討する。

本件では、被告から先使用の抗弁(争点1(三))が主張されているところ、被告は遅くとも原告からの本件商品の供給が停止した平成四年六月以後は、本件表示を使用した本件商品を自己の商品として販売し、平成五年一一月以後は被告表示を使用した被告商品を販売しているといえ、また本件表示と被告表示とは類似の範囲内にあるといえるから、原告の本件請求が認められるためには、遅くとも平成四年六月の時点で、本件表示が自己の商品を示す商品表示として周知になっていた必要がある。

しかし、前記のとおり、平成三年一二月ころの時点では、本件表示はロックウエストの商品を示す商品表示として周知性を有するに至っていたこと、原告が本件商品を自己の商品として販売し始めたのは平成四年以後のことであること、平成四年以後の原告による販売量も明らかでないことを考えると、それからわずか半年後の平成四年六月の時点において、本件表示が原告の商品を示す商品表示として独自の周知性を有するに至っていたと認めることはできない。

4  したがって、原告の不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

三  商標権侵害に基づく請求について(争点2)

1  原告が原告商標権を有していること、被告商標が原告商標と類似することは、前記第二の一(基礎となる事実)記載のとおりであり、前記一によれば、原告は、平成四年以降、自己の商品に原告商標を使用しているものと認められる。

2  そこで、権利濫用の抗弁(争点2(一))について検討するに、確かに前記一で認定したとおり、もともと本件商品に「セラール」「CERAL」の名を付してマンションのバルコニー用の商品として売り出すに当たっては、被告が大きな寄与をしたことは被告が指摘するとおりである。しかし、一で認定した事実からすれば、本件商品を開発するに当たって、独り被告のみが商品化に寄与したと見ることはできない上に、「セラール」という商品表示(原告商標)は、ロックウエストの商品を示す商品表示として使用され、周知性を獲得していったのであって、その名称を考案したのが被告であるとしても、被告の出所を表示するための商標として生み出され、また使用されたものではなかったというべきであるから、本件商品の商品化や商標の案出に被告が大きな寄与をしたからといって、そのことが本件表示及びそれに類似する被告商標を自らの商品の商標として使用し得ることを何ら根拠づけるものではないというべきである。しかも、原告も、平成四年以降は原告商標を自己の商品の商標として使用しており、その状況下の平成七年一一月九日に原告商標の商標登録出願を行って登録を得たのであるから、その出願・登録過程において何ら不当な要素は認められない。

したがって、被告の権利濫用の抗弁は認められない。

3  しかしながら、前記第二の一(基礎となる事実)記載のとおり、被告は平成一〇年一〇月二一日以降、被告商標を使用していないと認められ、他に被告が今後再び被告商標を使用するおそれがあることを認めるに足りる証拠はないから、商標権侵害に基づく差止請求は、差止めの必要性を欠くというべきであり、そうである以上、別紙著作物目録記載のパンフレットの廃棄請求も理由がない。

4  そこで次に原告が被告に対して賠償を求め得る損害額について検討する(争点2(二))。

(一) 前記第二の一(基礎となる事実)記載のとおり、被告は、原告商標権の登録日である平成九年七月二五日から最後に被告商標を使用した平成一〇年一〇月二〇日までの間に九三〇〇枚の被告商標を使用した被告商品を販売し、それにより二四八六万八二〇〇円の売上げを得、一八四七万九〇七〇円の売上原価を要し、六三八万九一三〇円の粗利益(売上額から売上原価を控除した利益)を得たものである。

(二) ところで、商標法三八条二項は、侵害行為を行った者が当該行為により受けた利益の額をもって権利者等の損害の額と推定する旨規定しているところ、この規定は、商標権が侵害された場合に権利者が侵害行為と損害との因果関係を立証することが一般に困難であることに鑑みて設けられたものであるが、さらに逸失利益の立証の容易化を図る趣旨で、平成一〇年の商標法の改正により、同条一項として、侵害者の譲渡した侵害品の数量に権利者が侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を損害の額とすることができる旨の規定が新設されたものである。これらの規定の趣旨を総合して考えると、同条二項にいう「利益の額」とは、侵害者が侵害行為によって得た売上額から侵害者において当該侵害行為たる製造・販売に必要であった諸経費を控除した額であると解するのが相当である。

もっとも、右「利益の額」とは、侵害者が侵害行為により受けている利益、即ち侵害行為と因果関係がある利益を意味している。したがって、侵害者が侵害行為により受けている利益を算定するに当たっては、侵害品の売上高から侵害行為のために要した費用のみを差し引くべきである。そして、侵害行為のために要した費用とは、いわゆる売上原価がそれに当たることは明らかであるが、販売費及び一般管理費にあっては、当該侵害行為をしたことによって増加したと認められる部分に限って、侵害行為のために要した費用と認めるのが相当である。なぜなら、一般に販売費及び一般管理費には、売上原価と異なり、当該侵害行為を行わなかったとしても必要であった費用が多く含まれており、そのような費用については、侵害行為を行うために要した費用とは認められないからである。そしてまた、このような観点からすれば、営業外費用、特別損失及び法人税については、特段の事情がない限り、侵害行為のために要した費用と認めることはできない。

(三) そこで、本件において売上原価以外に更に控除すべき経費について検討する。

(1) まず、被告商品の製造販売形態は、被告が訴外近畿セキスイ商事株式会社から材料を仕入れて訴外有限会社ケイプランニングに一括製造させ、同社から納品を受けた完成品を各得意先に販売するというものである(乙34)。

これよりすれば、被告商品の製造・仕入ルートは固定しており、被告商品の製造・仕入れのための格別の営業活動を要するものではなかったと推認される。

(2) 次に、被告は、数多くのマンション用オプション品の販売をしているところ(乙5、31参照)、マンション用オプション品は、マンション購入者に対する事前の販売会を開催して販売するのが通常の形態であることは前記一3のとおりである。そして、乙34に添付された被告商品の注文書(写し)を見ると、そのほとんどについて、被告商品以外の商品に関するものとして黒く塗りつぶされた箇所(ただし原告代理人において原本を確認した。)が多く含まれており、ほとんど常に、被告商品以外のオプション品も被告商品と同時に販売されたことが認められる。

これよりすれば、販売会においてオプション品を販売するために要した営業費用は、被告商品の販売の有無に関わらず被告にとって必要となったものであると推認される。

(3) さらに、被告商品の平成九年七月二五日から平成一〇年一〇月二〇日までの一五か月間の売上額は、前記のとおり二四八六万八二〇〇円であるが、これを一二か月間ベースに換算すると一九八九万四五六〇円となる(24,868,200÷15×12=19,894,560)。これに対し、平成九年八月二一日から平成一〇年八月二〇日までの間の被告の全売上高は一一億〇四〇九万九一八五円であるから(乙34)、被告商品の売上高の被告全体の売上高に占める割合は、わずか一・八%程度にすぎない(なお、被告の売上高販管費率は約二〇%である〔乙34〕。)。

これよりすれば、被告の販売費及び一般管理費中、被告商品を販売することによって追加的に必要になったものが実際にどの程度あるのか、大いに疑問があるというべきである。

(4) 以上よりすれば、基本的に、被告が被告商品を販売するに当たって販売費及び一般管理費を追加的に必要としたと見ることはできない。しかしながら、甲2及び乙8の3によれば、被告は被告商品のための宣伝広告活動を実際に行っていることが認められ、また、実際に被告商品を販売・納品するためには多少の費用を要することも推認はできる。

このような諸事情を総合考慮すると、本件において被告商品の販売によって追加的に必要となった販売費及び一般管理費は、多くとも売上額の四%を超えることはないと認めるのが相当であり、これによれば、控除すべき販売費及び一般管理費は、九九万四七二八円となる(24,868,200×0.04=994,728)。なお被告は、営業外費用及び法人税をも控除すべきであると主張するが、前記のとおりこれらは被告商品の売上げに要した費用とは認めることができない。

(5) 以上より、本件で被告商品の販売によって被告が得た利益は、(一)記載の粗利益額から、(4)記載の経費を控除した五三九万四四〇二円であると認められる。

(四) 被告は、さらに被告が右利益を得るに当たっては、商標の使用以外に、被告の営業努力やロゴ・色彩等の相違が影響しているから、被告が得た利益を直ちに原告の損害額と推定することはできないと主張する。しかし、甲38ないし49によれば、原告も東急リゾートや長谷工コーポレーションといった大手マンション業者のマンションへの納品を行っているのであって、マンションのバルコニー用のジョイントタイルという商品が一般に普及している状況下において、原告と被告との営業力がどれほどかけ離れているものか全く明確でない。また、ロゴや色彩等の点も、それらが顧客吸引力に大きな影響をもたらしたと認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告の右主張は採用できない。

(五) 以上によれば、本件において原告が被告に対して請求し得る損害額は、五三九万四四〇二円である。

なお、遅延損害金について付言するに、不法行為による遅延損害金は、各行為のときから個別に起算されるべきものであるが、本件では、原告の前記損害賠償請求権のうちどの部分がいつからそれぞれ遅滞に陥るのかについての主張立証がない。しかし少なくとも、被告商標の使用が中止された平成一〇年一〇月二一日以降は、損害賠償請求権全体が遅滞に陥ることは認められるから、右を起算日とする限度で遅延損害金の支払請求を認めるのが相当である。

四  反訴について(争点3、4)

本件の反訴における被告の主張の趣旨は、原告商標を案出して商品化したのが被告であることから、被告こそが原告商標の商標登録請求権(商標登録を受ける権利)を有する者であるということを前提に、原告商標権は原告が被告の有する商標登録請求権を冒用して得たものであるから、その真の商標権者は被告であるとして、右商標権に基づき、原告に対して原告商標の移転登録手続請求権が発生するというものであるものと解される。

原告は、反訴は訴えの利益を欠く旨主張するが、反訴は、被告が右のような主張に基づいて原告に対し原告商標の移転登録手続を求めるものであるから、紛争解決の必要性があるものというべきであり、訴えの利益の存在自体は肯定できる。原告主張のように、反訴請求が法律上存しない権利を基礎とする請求であるか否かは、本案判決において判断されるべき事柄である。

そこで反訴請求の当否について検討するに、まず、特許法が「産業上利用することができる発明をした者」に対して「その発明について特許を受けることができる。」としている(特許法二九条一項。なお、実用新案法三条一項、意匠法三条一項も参照)のとは異なり、商標法では「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、…商標登録を受けることができる。」としており(商標法三条一項)、自己の業務に係る商品又は役務について当該商標を使用する意思があれば、何人がその商標を案出したかにかかわりなく商標登録を受けることができるものとされている。これは、特許法が、新規で進歩性のある発明を保護し、その創作を奨励する(特許法一条。なお実用新案法及び意匠法の各一条も参照)ことから、その登録の前提条件としての発明の創作を必要とするのとは異なり、商標法では、出所識別標識としての商標を保護し、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図ることを目的としており(商標法一条)、人間の創作活動の成果の経済的価値を保護するものではなく、したがって何人にも任意に選択採用され得るものであるという相違に基づくものであると解される。このような相違からすれば、商標権については、特許権とは異なり、商標登録出願以前に商標登録請求権(ないし商標登録を受ける権利)というものは法律上予定されていないと解するのが相当であり、この点は、特許法等においてはいわゆる冒認出願に関する規定が設けられている(特許法四九条六号、一二三条一項六号。なお、実用新案法三七条一項五号、意匠法一七条四号及び四八条一項三号も参照)のに対し、商標法ではそのような規定が設けられていないことからも窺われるところである。

また、仮に被告が主張するような商標登録請求権(商標登録を受ける権利)なるものが商標上認められるとしても、商標権は設定登録という行政処分によって発生するものであるから(商標法一八条一項)、商標登録請求権の冒用の有無にかかわらず、その権利は右処分の名宛人に対して付与されるのであり、仮に被告が商標登録請求権なるものを有していたとしても、被告が原告商標権の権利者となることはあり得ない。

そうとすれば、被告の反訴請求は主張自体失当であるから、棄却すべきものである。

なお、念のために付言すると、前記三2で述べたところからすれば、原告商標について本来商標権を取得すべき者は被告であるとはいえないことは明らかである。

第五結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対して商標権侵害に基づき金五三九万四四〇二円円の支払を求める限度で理由があり、被告の反訴請求は失当であるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 水上周)

〈以下省略〉

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